映画:Arrival(メッセージ)の感想とレビュー
ネットフリックスで配信されてたArrivalを観たのでその感想とレビュー。ネタバレ要素を含みますのでご了承くださいましー。
トレーラーはこちら。
2017年公開の「ブレードランナー2049」でメガホンをとった、ドゥニ・ビルヌーブ監督が監督です。
原作は、SF小説の各賞を総なめにした、アメリカの作家テッド・チャンによる短編小説「あなたの人生の物語」。
目次
見所は言語哲学
この映画、ノーラン並みに、哲学的、言語学的に噛みごたえがあるんですよ。
言語が認識を作るのか、認識するために言語が作られるのか、といったにわとりたまご的な命題があるんだけど、この命題をうまーいこと取り入れてて、感動。
原作が、感動物語っぽいかんじなので、この見所というのはあくまでも個人的なもの。あらすじをなぞった後に詳しく書いていきます。
ネタバレあらすじ
キーワードは「Hannah」。
主人公の言語学者ルイーズが、娘に名付けた名前。
上から読んでも、下から読んでも、ハンナって読めるから、名付けたんだよー。
と、ルイーズが娘に言うシーンがあって、「なんやねん、めっちゃ適当やん!」と思ってたら、この映画の時系列のプロットに巧みに関係しているというのが映画後半で明らかになってきて、震えました。
なんのこっちゃねんという方が多いと思うので、ストーリー解説続けます。
冒頭
おー、なんか出だしから切ない。色味もくらい。
このシーンまで20分くらいあるんだけど、世界各地に現れた正体不明の物体の全体像がなかなか出てこないのよ!
上のキャプチャー、左上に物体がチラ見してるけど、全体像が全然わからん。エイリアンものが大好きなだけど早く観たい!
巨大なお米笑 「正解するカド」っていう似たようなテーマのアニメがあるんだけど、そこでは正体不明の物体は正方形の異次元物質だった。
変異凝った形だったり、UFO!みたいな造形だと、陳腐なイメージになっちゃうけど、お米型とは恐れ入りました。
宇宙人後の解明が進む中盤
急がば回れ。あせってもいいことないんだよね。中途半端に、それが正しいかどうかもわからず、「人類に武器=道具?」を与えに来たというメッセージを解読してしまったために、利己的になった各国の協力体制がバラバラになってしまう。
脇道:宇宙人語のロゴグラムが秀逸しぎる!
ところで、かれらが表す「文字(ロゴグラム)」のデザインがちょーかっこいい!人が作ったものっぽくなくて斬新。
調べてみたら、わざわざ、宇宙人が使う言語を開発した模様。映画で使用されるキーアイテムだけに、プログラムベースで、完成したひとつの言語体系としてつくあげたらしい。
やば!笑
閑話休題。
全ての伏線が回収される後半
中盤くらいから、娘との思い出シーン?がちょいちょい出てきて、ルイーズにクリティカルなワードを与えてくれるんですよ。
「ルイーズは未来をみる」
へ?どういうこと?そういうこと?
つまり、娘との思い出だと思っていたのが実は、未来だったてことか!
中盤で、言語を理解するに連れて、娘との思い出シーンをみることが増えていったと思ったら、それは未来をみることが多くなっていった。
その未来では、ルイーズが宇宙言語を習得し、この正体不明物体の問題を解決した後の未来。だから、当然、自分が過去にどうやってこの言語を解き明かしたのか、を知っている。
ついについに戦争は止まった。
最後の最後に、全ての伏線が回収されて、ひとつのピースに治って感動したよ!
宇宙人は、今現在の地球人よりははるかに高度な文明をもっているが、数千年後に地球人の力が必要になるため、地球人にこの未来視の力をさずけたのだそう。たぶん映画中には未来視の力しか描かれていないけど、おそらく宇宙人の言語体系は、他にもいろんな認識や性格形成の因子、能力を含むものなんだろう。
「正解するカド」っていう同じテーマのアニメがあるけど、こちらを見てみると、この映画への理解がより深まるかもしれない。
最初に戻って「Hannah」とは?
頭から読んでも、ケツから読んでも「hannah」
映画冒頭の、娘が亡くなったしまう過去と思われていたシーンは、これから観る未来だったということ。
映画メメントが、シーンのタイムラインで遊んだように、この映画も、最初と最後の時間軸が同じということを示唆するのがhannahというキーワードだった。
まー、主人公目線ではなく、メタ目線の言葉遊びだけど、謎が仕掛けに気づいた瞬間は気持ちよかった。
結論:言語が認識を作り、能力を生み出す、っていう哲学が面白い!
ルイーズは、宇宙人の言語を学ぶことで、未来視の力を得ることになった。文字で書くとSFちっくなんだけど、言語が認識をつくるという哲学的観点にもとづくと、すっごくしっくりくるんだよね。
言語が認識を作る例
虹は6色であるという概念をもった英語圏の人は、虹が6色にみえるけど、日本人は虹が7色であるという概念をもった日本語をインストールしているので、虹が7色に見える。
言語が認識を阻害する例
秋になると、日本人は鈴虫などの虫の音を、「虫の音」というラベルを用いて、言語として認識している。日本人が虫の音を聞くときは、左脳が働く、つまり言語として認識しているそう。
一方で、他の言語圏の人が虫の音を聞こえていても、そもそも認識できないそう。
東京医科歯科大学の角田忠信教授が1987年にハバナで開かれた、第一回国際学会「中枢神経系の病態生理学とその代償」に参加した時の事のエピーソドから。
言語が性格を作る例
筆者は、日本語が母国語だけど、ビジネスレベルの英語と、日常会話に毛が生えた程度のスペイン語を話す。スペイン語は猛烈勉強中である。
言語が性格をつくる、というのは個人的な経験に基づく仮説でしかない。ただ、確信めいたものはある。
スペイン語を母国語とする人たちは、総じて陽気で、適当だ。いい意味でも悪い意味でも。
最初のスペイン人の友達がめっちゃ適当なやつだが、中南米をバックパックしてまわっているときに出会った現地人も適当な人や事が多かった。
遅刻とか当たり前だし、バスが遅れるとかも当たり前。
何がこの現象を形作っているのかとずっと考えていたのだけど、自分なりに出した答えは、言語が人格を形成するだ。
詳しい考察は、別の記事で書くことにする。
言語が持つパワー
ルイーズが宇宙人語を習得することで、新しい能力を獲得したように、現実世界でも言語が人の認識に大きな影響を及ぼしているのは間違いない。認識は、思考の志向性にも繋がるし、志向性が変われば能力も変わる。
もちろん、目の前の事象を認識したいがために、言語や単語が形成されていったという側面もあるので、にわとりたまご理論になるのではあるが。
この映画を見たときに、これまで自分が感覚的に持っていた仮説が確信に変わった。
いろんな楽しみ方ができる映画なので、まだ見ていない人はぜひ観て欲しい。